艶やかな「黒」に彩られた雨に濡れたパリの夜
『チャオ・パンタン』はヌーヴェル・ヴァーグだけにとどまらず「チェコ・ニューウェイヴ」とも横断的に関わった、『老人と子供』や『愛と宿命の泉』などで知られるクロード・ベリが監督した1983年の作品。フランスでは当時、400万人近くの観客を集める大ヒットとなり、セザール賞でも5部門に輝き高く評価された。1983年と言えば、フランソワ・ミッテラン大統領の政権下で移民政策が緩和にされ、特に北アフリカ系アラブ人の流入により彼らの存在が少しずつ可視化されるようになった時代でもあった。そのような時代背景のもと『チャオ・パンタン』は、それまでの〈フレンチ・ノワール〉の美学を踏襲しつつも、後の〈郊外映画〉を予見させるような、当時のフランス社会における、都市の周縁に追いやられた者たちの孤独や哀しみを描き出した作品となった。
主役のランベールを演じるのは、フランスの国民的人気コメディアンだったコリューシュ。セザール賞の最優秀主演男優賞に輝く畢生の名演となった。一方、ベンスサン役には、ジャック・ドワイヨンの『ピストルと少年』の刑事役などで知られるリシャール・アンコニナ。危うさと純粋さを兼ね備えた青年役を見事に演じ、セザール賞の最優秀助演男優賞と有望新人賞のW受賞となった。また、バウアー刑事役は『愛しきは、女/ラ・バランス 』のフィリップ・レオタールが、パンク・クラブに出入りするローラ役には当時新鋭のアニエス・ソラルが務めた。
原作は、『太陽が知っている』で知られるアラン・パージュ。脚本はパージュとベリが共同執筆。撮影は、マルグリット・デュラスの映画などで知られる名手ブリュノ・ニュイッテン。この映画の夜の撮影はあまりにも素晴らしく、セザール賞の最優秀撮影賞を受賞した。そして美術は、『天井桟敷の人々』など戦前から活躍しているベテランのアレクサンドル・トローネルが手がけ、この作品に深い詩情を与えている。



